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内田邦彦くにひこ君の『南総之俚俗なんそうのりぞく』の中に、東上総ひがしかずさの本納ほんのう辺の慣習として、鬼子が生まれると歳神様としがみさまへ上げた棒で叩たたくとある。これとよく似たことで今日弘く行われているのは赤ん坊があまり早く例えば一年以内にあるき始めると、大きな餅もちを搗ついてこれを脊負わせ、それでもなおあるくと突き倒したりする親がある。鬼子というのは多分歯が生えて産れる子のことであろうが単に殺すことを許されぬ故にこんな方法をのちに代用したものとみても、なお歳神の棒ということには、考え出さねばならぬ深い意味がある。或いは本来はこのうえもない立派な児であるけれども凡人の家にとっては善過よすぎるために、その統御を神に委ねるの意味ではなかったか。いずれにもせよ後世の民家で、怖れて殺したほどの異常なる特徴は、同時にまた上古の英傑勇士名僧等の奇瑞として、尊敬して永く語り伝えたものと一致し、さらに常理をもって判断しても、それがことごとく昔の個人生活の長処ばかりであったことを考えると、野蛮な風習だから大昔からあったろうと、手軽に推断することもできぬようである。人間の畸形きけいにも不具と出来過ぎとが確かにある。大男も片輪かたわのうちに算かぞえるのは、いわゆる鎖国時代の平民の哀れな遠慮であろう。蝦夷のシャグシャインやツキノイ、南の小島では赤蜂本瓦あかぶさほんがわらや与那国よなくにの鬼虎おにとらのごとき、容貌魁偉かいいなる者は多くは終りを全まっとうしなかった。それを案じて家にこのような者の生まれるを忌んだのはおそらくは新国家主義の犠牲であった。部曲が対立して争闘してやまなかった時代には、いわゆる鬼の子はすなわち神の子で、それ故にこそ今も諸国の古塚を発あばくと、往々にして無名の八掬脛やつかはぎや長髄彦ながすねひこの骨が現れ、もしくは現れたと語り伝えて尊信しているのである。
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