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この類の実例はゆくゆくなお追加しうる見込みがある。前にいう仁原山は市房山と白髪岳との中間にある山だが、その白髪岳の山小屋でも近年山の事業のためにしばらく入っていた某氏が、夜になると山女がきて足を持って引張るので、なにぶんにも怖ろしくて我慢ができぬといって還ってきたこともあった。球磨郡四浦ようら[#ルビの「ようら」は底本では「ようち」]村の吉という木挽が、かつて五箇庄ごかのしょうの山で働いていた時に、小屋へ黙って入ってきた髪の毛の長い女などは、にこにことしてしきりに自分の乳房をいじっていた。驚いて飛びだして銕砲てっぽうなどを持って、多勢で還ってきてみるともうその辺にはいなかったそうである。単に遠くから姿を見たというだけの話なら、まだこの附近にも近頃の例がいくつかある。東北地方では会津の磐梯山ばんだいさんの入山などにも、山女らしい話がおりおり伝えられる。『竜章東国雑記りゅうしょうとうごくざっき』の第六集に、「文化の初め頃、山麓某村の農民二人、川※(「くさかんむり/弓」、第3水準1-90-62)せんきゅうといふ薬草を採りに、此山西北の谿たにに入って還ることなり難く、流ながれに傍そうた大木の虚洞うつろに夜を過すとて、穴の外に火を焚たいて置くと、たけ六尺ほどで髪の長さは踵かかとを隠すばかりなる女が沢蟹さわがにを捕へて此火に炙あぶつて食ひ、又両人を見て笑った」と記している。「これ俗に山ワロと謂ひ野※(「けものへん+爰」、第3水準1-87-78)やえんの年とし経たるもの也。奥羽の深山にはまゝ居る由にて、よく人の心中を知れども人に害を為すことなし」などとあって、土地でも詳しいことは知らぬのである。また『老媼茶話ろうおうちゃわ』には猪苗代いなわしろ白木城の百姓庄右衛門、同じく磐梯山の奥に入って、山姥のかもじと称するものを見つけたことを載せている。「長さ七八尺にして白きこと雪の如く、松の大木の梢にかゝつて居た」とあって其末に、「世に謂ふ山姥は南蛮国なんばんこくの獣なり。其形老女の如し。腰に皮ありて前後に垂れ下りたふさぎの如し。たま/\人を捕へては我住む岩窟がんくつに連れゆき、強ひて夫婦のかたらひを求む。我心に従はざるときは其人を殺せり。力強くして丈夫に敵す。好みて人の小児を盗む。盗まれし人之を知り、多勢集まり居て山姥が我子を盗みしことを大音に罵ののしり恥しむるときは、窃ひそかに小児を連れ来り、其家の傍に捨て置き帰るといへり」などといっている。実際の遭遇がようやく稀まれになって雑説はいよいよ附け加わるので、これなども支那の書物の知識が、もう半分ばかりもまじっているようである。
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