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わたくしは少時の文一郎を伝うるに、辞ことばを費すことやや多きに至った。これは単に文一郎が穉おさない成善しげよしを扶掖ふえきしたからではない。文一郎と渋江氏との関係は、後に漸ようやく緊密になったからである。文一郎は成善の姉壻になったからである。文一郎さんは赤坂台町あかさかだいまちに現存している人ではあるが、恐おそらくは自ら往事を談ずることを喜ばぬであろう。その少時の事蹟には二つの活いきた典拠がある。一つは矢川文内の二女お鶴つるさんの話で、一つは保さんの話である。文内には三子二女があった。長男俊平しゅんぺいは宗家を嗣ついで、その子蕃平しげへいさんが今浅草向柳原町むこうやなぎはらちょうに住しているそうである。俊平の弟は鈕平ちゅうへい、録平ろくへいである。女子は長を鉞えつといい、次つぎを鑑かんという。鑑は後に名を鶴と更あらためた。中村勇左衛門即ち今弘前桶屋町おけやまちにいる範一はんいちさんの妻で、その子の範すすむさんとわたくしとは書信の交通をしているのである。
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