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艦橋をおりて武男は右舷速射砲台に行けば、分隊長はまさに双眼鏡をあげて敵の方かたを望み、部下の砲員は兵曹へいそう以下おおむねジャケットを脱ぎすて、腰より上は臂ひじぎりのシャツをまといて潮風に黒める筋太の腕をあらわし、白木綿しろもめんもてしっかと腹部を巻けるもあり。黙して号令を待ち構えつ。この時わが先鋒隊は敵の右翼を乱射しつつすでに敵前を過ぎ終わらんとし、わが本隊の第一に進める松島は全速力をもって敵に近づきつつあり。双眼鏡をとってかなたを望めば、敵の中央を堅めし定遠鎮遠はまっ先にぬきんでて、横陣やや鈍角をなし、距離ようやく縮まりて二艦の形状かたちは遠目にも次第にあざやかになり来たりぬ。卒然として往年かの二艦を横浜の埠頭ふとうに見しことを思い出いでたる武男は、倍の好奇心もて打ち見やりつ。依然当時の二艦なり。ただ、今は黒煙をはき、白波はくはをけり、砲門を開きて、咄々とつとつ来たってわれに迫らんとするさまの、さながら悪獣なんどの来たり向こうごとく、恐るるとにはあらで一種やみ難き嫌厭けんえんを憎悪ぞうおの胸中にみなぎり出いづるを覚えしなり。
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