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長泉寺の隠居所は次第に賑にぎわしくなった。初め保は母と水木みきとの二人の家族があったのみで、寂しい家庭をなしていたが、寄寓きぐうを請う諸生を、一人ひとり容いれ、二人容れて、幾いくばくもあらぬに六人の多きに達した。八田郁太郎はちたいくたろう、稲垣親康いながきしんこう、島田寿一じゅいち、大矢尋三郎じんざぶろう、菅沼岩蔵すがぬまいわぞう、溝部惟幾みぞべいきの人々である。中にも八田は後に海軍少将に至った。菅沼は諸方の中学校に奉職して、今は浜松にいる。最も奇とすべきは溝部で、或日偶然来て泊り込み、それなりに淹留えんりゅうした。夏日かじつ袷あわせに袷羽織ばおりを著きて恬てんとして恥じず、また苦熱の態たいをも見せない。人皆その長門ながとの人なるを知っているが、かつて自ら年歯ねんしを語ったことがないので、その幾歳なるかを知るものがない。打ち見る所は保と同年位であった。溝部は後のち農商務省の雇員となり、地方官に転じ、栃木県知事に至った。
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