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おいちは三之助とはずっと離れた部屋で寝起きをした。三之助の部屋にいるときは、必らず障子をあけておいた。宿帳にはもちろん偽名であるが兄妹と書いて、それが宿の者に少しも疑がわれずに来た。……紀平とはっきり縁が切れるまではそれが当然だろう、松助はそう思っていた。そのまえにもしふたしなみなようすでもあったら、容赦なく面罵めんばしてやるつもりでさえいた。しかし二人の態度はいつまでも変らず、松助の眼にもすがすがしくみえるようになった。かれらは殆ど話しをしなかった、同じ部屋にいるときでも、おいちは縫い物をしたり薬を煎せんじたりし、三之助は黙ってしんと寝ていた。ときどき短かい話しを交わすと、いつもお互いの小さい頃の思い出であった。
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