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阿部家は尋ついで文政九年八月に代替だいがわりとなって、伊予守正寧まさやすが封ほうを襲ついだから、蘭軒は正寧の世になった後のち、足掛あしかけ四年阿部家の館やかたに出入いでいりした。その頃抽斎の四人目の妻五百いおの姉が、正寧の室しつ鍋島氏なべしまうじの女小姓を勤めて金吾きんごと呼ばれていた。この金吾の話に、蘭軒は蹇あしなえであったので、館内かんないで輦れんに乗ることを許されていた。さて輦から降りて、匍匐ほふくして君側くんそくに進むと、阿部家の奥女中が目を見合せて笑った。或日あるひ正寧が偶たまたまこの事を聞き知って、「辞安は足はなくても、腹が二人前ににんまえあるぞ」といって、女中を戒めさせたということである。
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