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外へ出てみる。町には魚の匂いが流れている。公園にゆくと夕方の凍った池の上を、子供達がスケート遊びをしていた。固い御飯だって関かまいはしないのに、私は御飯がたべたい。荒れてザラザラした唇には、上野の風は痛すぎる。子供のスケート遊びを見ていると、妙に切ぱ詰った思いになって涙が出た。どっかへ石をぶっつけてやりたいな。耳も鼻も頬も紅あかくした子供の群れが、束子たわしでこするようにキュウキュウ厭な音をたてて、氷の上をすべっていた。――一縷いちるの望みを抱いて百瀬さんの家へ行ってみる。留守なり。知った家へ来て、寒い風に当る事は、腹がへって苦しいことだ。留守居の爺さんに断って家へ入れて貰う。古呆けて妖怪じみた長火鉢の中には、突きさした煙草の吸殻が葱ねぎのように見えた。壁に積んである沢山の本を見ていると、なぜだか、舌に唾が湧いて来て、この書籍の堆積たいせきが妙に私を誘惑してしまう。どれを見ても、カクテール製法の本ばかりだった。一冊売ったらどの位になるのかしら、支那蕎麦そばに、てん丼どんに、ごもく寿司、盗んで、すいている腹を満たす事は、悪い事ではないように思えた。火のない長火鉢に、両手をかざしていると、その本の群立が、大きい目玉をグリグリさせて私を嗤わらっているように見える。障子の破れが奇妙な風の唄をうたっていた。ああ結局は、硝子ガラス一重さきのものだ。果てしもなく砂に溺おぼれた私の食慾は、風のビンビン吹きまくる公園のベンチに転がるより仕ようがない。へへッとにかく、二々が四である。たった一枚のこっている、二銭銅貨が、すばらしく肥え太ったメン鶏にでも生れかわってくれないかぎり、私の胃のふは永遠の地獄だ。歩いて池いけの端はたから千駄木町に行った。恭ちゃんの家に寄ってみる。がらんどうな家の片隅に、恭ちゃんも節ちゃんも凸坊も火鉢にかじりついていた。這はうような気持ちで御飯をよばれる。口一杯に御飯を頬ばっている時、節ちゃんが、何か一言優しい言葉をかけてくれたのでやみくもに涙が溢あふれて困ってしまった。何だか、胸を突き上げる気持ちだった。口のなかの飯が、古綿のように拡がって、火のような涙が噴きこぼれてきた。塩っぱい涙をくくみながら、声を挙げて泣き笑いしていると、凸坊が驚いて、玩具おもちゃをほおり出して一緒に泣き出してしまった。
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