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安政三年になって、抽斎は再び藩の政事に喙くちばしを容いれた。抽斎の議の大要はこうである。弘前藩は須すべからく当主順承ゆきつぐと要路の有力者数人とを江戸に留とどめ、隠居信順のぶゆき以下の家族及家臣の大半を挙げて帰国せしむべしというのである。その理由の第一は、時勢既に変じて多人数たにんずの江戸詰づめはその必要を認めないからである。何故なにゆえというに、原もと諸侯の参勤、及これに伴う家族の江戸における居住は、徳川家に人質を提供したものである。今将軍は外交の難局に当って、旧慣を棄すて、冗費を節することを謀はかっている。諸侯に土木の手伝てつだいを命ずることを罷やめ、府内を行くに家に窓蓋まどぶたを設もうくることを止とどめたのを見ても、その意向を窺うかがうに足る。縦令たとい諸侯が家族を引き上げたからといって、幕府は最早もはやこれを抑留することはなかろう。理由の第二は、今の多事の時に方あたって、二、三の有力者に託するに藩の大事を以てし、これに掣肘せいちゅうを加うることなく、当主を輔佐して臨機の処置に出いでしむるを有利とするからである。由来弘前藩には悪習慣がある。それは事あるごとに、藩論が在府党と在国党とに岐わかれて、荏苒じんぜん決せざることである。甚だしきに至っては、在府党は郷国の士を罵ののしって国猿くにざるといい、その主張する所は利害を問わずして排斥する。此かくの如きは今の多事の時に処する所以ゆえんの道でないというのである。
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